犬の健康診断って何を調べるの?検査項目の意味と必要性を獣医師が解説
愛犬とできるだけ長く、健やかに暮らしていくためには、定期的な健康診断が重要な役割を果たします。犬は人間よりも年をとるスピードが早く、病気の進行もあっという間です。
初期の段階では目立った症状が出にくい病気も多く、飼い主さまが気づいたときにはすでに進行していることもあります。健康診断によって病気の早期発見・早期治療ができれば、愛犬の「健康寿命」を伸ばすことにつながります。
今回は、健康診断で行われる主な検査内容や、検査ごとにわかること、飼い主さまに知っておいていただきたいポイントを獣医師の視点から詳しく解説します。
■目次
1.年齢ごとに異なる健康診断のタイミング
2.健康診断の基本|身体検査でわかること
3.血液検査でわかる体の内側の異常
4.尿検査・便検査の役割
5.画像診断で体の中を「見て」確認
6.健康診断結果の見方と活用のポイント
7.まとめ
年齢ごとに異なる健康診断のタイミング
犬のライフステージに応じて、健康診断の頻度や内容も変わってきます。それぞれの段階に合わせた適切なチェックを行うことで、病気の早期発見や予防、健康寿命の延伸につなげることができます。
▼子犬期(〜1歳)
成長が著しいこの時期は、月1回程度の健康チェックが推奨されます。
ワクチン接種や寄生虫予防に加え、便検査などによる寄生虫感染の確認が重要です。
▼成犬期(1〜7歳)
健康状態が安定しやすい成犬期でも、年1回の定期健康診断を受けることで、自覚症状のない疾患を早期に発見することができます。
基本の身体検査・血液検査・尿検査・便検査に加えて、必要に応じてレントゲンやエコー検査を組み合わせることもあります。
▼シニア期(7歳以上)
病気のリスクが一気に高まる時期です。年2回(半年に1回)以上の検査が望まれます。特にこの時期は「検査数値の推移」を確認しながらの継続的な健康管理が大切です。
認知機能検査・心電図・血圧測定など、加齢に伴う機能低下を早期に発見するための検査が加えられることもあります。
また、遺伝性疾患や慢性疾患のリスクの高い犬種や、持病がある場合は、より頻繁なチェックや専門的な検査が必要になることもあります。たとえば、小型犬の心エコー検査、大型犬の関節チェックなど、犬種に合わせた対応が重要です。
健康診断の基本|身体検査でわかること
健康診断でまず行われるのが、獣医師による身体検査です。
・体重測定:体重の急な増減は、代謝異常や内臓疾患のサインかもしれません。
・体温測定:高体温・低体温はいずれも感染症や内分泌疾患の可能性を示唆します。
・心拍数・呼吸数の測定:異常がある場合、心臓や肺の病気が疑われます。
・視診・触診・聴診:目・耳・口の中・皮膚・被毛の状態、リンパ節の腫れ、心音や呼吸音の異常などをチェックします。
飼い主さまが気づきにくい小さな変化でも、獣医師による診察で早期に発見されることがあります。
血液検査でわかる体の内側の異常
血液検査は、愛犬の体の中で何が起きているのかを数値で確認できる、健康診断における最も基本的かつ重要な検査のひとつです。
血液検査には、大きく分けて「CBC(全血球計算)」と「血液生化学検査」の2種類があります。
<CBC(全血球計算)でわかること>
・赤血球・ヘモグロビン・ヘマトクリット
貧血や脱水の有無をチェック。シニア犬や消化器疾患のある犬で注意が必要です。
・白血球
炎症や感染、免疫系の異常の有無を確認。急な発熱や元気の低下があるときの参考にもなります。
・血小板
出血しやすい状態になっていないかを確認。外科処置前のチェックにも必須です。
<生化学検査でわかること>
・肝機能(ALT、AST、ALP、T-Bilなど)
肝炎・胆泥症・肝腫瘍・中毒性疾患などの兆候を察知します。
ミニチュア・シュナウザーなど一部犬種はALPが高く出やすい傾向があります。
・腎機能(BUN、CRE、SDMAなど)
慢性腎臓病・尿路閉塞・脱水のサインを確認します。
年齢とともに腎機能は徐々に低下するため、中高齢犬では特に注意が必要です。
・膵機能(AMY、LIPA、TLIなど)
膵炎や膵機能不全のチェックに役立ちます。
食欲不振や腹痛のサインと組み合わせて評価されます。
・甲状腺機能(T4、TSH)
甲状腺機能低下症(中年以降の大型犬に多い)や機能亢進症(小型高齢犬に多い)の可能性を評価します。
・血糖値(GLU)
糖尿病の診断・管理に不可欠です。
肥満や飲水量の増加が見られる犬では定期的なチェックが望ましいです。
・電解質(Na、K、Clなど)・蛋白質・コレステロール
脱水・ホルモン異常・栄養バランスの乱れを反映します。
血液検査の項目は多岐にわたりますが、獣医師が症状や年齢、犬種などを踏まえて総合的に判断することで、病気の早期発見や的確な治療方針につながります。特に中高齢の犬では、毎年の経過比較がとても重要です。数値のわずかな変化が、病気のはじまりを教えてくれることもあります。
尿検査・便検査の役割
健康診断では、血液検査と並んで尿検査と便検査も重要な役割を担っています。
<尿検査でわかること>
尿検査では、腎臓や膀胱の機能をはじめ、泌尿器や代謝に関わるさまざまな情報が得られます。
・腎臓や膀胱の健康状態
尿にたんぱくや血液が含まれている場合は、腎炎や膀胱炎などの可能性が考えられます。
・尿路感染症・尿結石
尿中に細菌や結晶が見られると、膀胱炎・尿道炎・膀胱結石などの早期サインになることがあります。
・糖尿病の兆候
尿に糖が検出されることで、初期の糖尿病が疑われることもあります。
<便検査でわかること>
便検査は、消化器の働きや腸内環境、寄生虫感染などをチェックするために行われます。
・消化吸収の状態
下痢や便のにおい・色の変化などが、腸炎や膵機能の低下などを示唆する場合があります。
・寄生虫感染の有無
特に子犬では、回虫・鉤虫・鞭虫などの寄生虫に感染していても症状が出にくいことがあります。無症状でも感染しているケースがあるため、便検査で確認しておくと安心です。
尿と便の状態は、毎日変化する“体からのメッセージ”ともいえます。
目には見えない異変を見つけるためにも、定期的な健康診断での検査を習慣にすることが、病気の早期発見・予防につながります。
画像診断で体の中を「見て」確認
身体検査や血液検査だけではわからない異常を、直接“見る”ことで確認できるのが画像診断です。症状が出ていなくても、臓器の異常や腫瘍、骨の変化などを早期に発見できるため、健康診断においても重要な役割を担っています。
<レントゲン検査(X線)>
骨や臓器の形・位置・大きさの異常を調べる基本的な画像検査です。
・骨折や関節の変形などの整形外科的異常
・心臓の肥大、肺の影、胸水などの循環器・呼吸器疾患
・胃腸のガスのたまり、結石の有無など消化器・泌尿器のトラブル
などが確認できます。
<超音波検査(エコー)>
体にやさしく、リアルタイムで臓器の動きや血流を確認することができる検査です。無麻酔で行えるのも特徴です。
・肝臓・腎臓・膀胱・脾臓・腸・子宮などの構造異常や腫瘍、結石、胆泥の検出
・心臓の収縮力や弁の動き、血流の逆流などの評価(心エコー)
初期段階の異常も捉えやすく、腫瘍の早期発見や慢性疾患の進行管理に有用です。
<CT・MRI検査>
より詳細な診断が必要な場合に行われる高度な検査です。
・CT検査:主に、肺や骨、腫瘍の大きさ・位置関係の精密評価
・MRI検査:脳・脊髄・関節など軟部組織の病変の検出
発作やふらつき、歩行異常などが見られるときに、脳腫瘍や脊髄の圧迫病変の診断に用いられることもあります。
これらの画像診断は、それぞれの特性を活かしながら適切に使い分けることで、症状のないうちから病気を見つけることが可能になり、早期治療に結びつけることができます。
健康診断結果の見方と活用のポイント
検査結果は、数値が基準値から外れている=異常とは限りません。大切なのは、愛犬の過去のデータと比較して経時的な変化を見ていくことです。
疑問があれば遠慮せず獣医師に質問し、しっかり説明を受けましょう。検査結果は保管しておくことで、次回の健診や、他院での診察の際にも役立ちます。
まとめ
定期的な健康診断は、愛犬の状態を正確に把握し、病気を早期に発見するための大切な習慣です。日々の生活では気づけない体の異変も、検査を通じて明らかになることがあります。
検査結果をもとに、食事・運動・生活環境を見直すことで、日常のケアの質も高まり、より健やかな毎日へとつながります。愛犬の「今」と「これから」を守るために、ぜひ定期的な健康診断を受けてみてください。
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