尿道閉塞~2mmの石が緊急事態を引き起こす~
何回も吐く、陰部を気にする、お腹が痛そうとの主訴で
来院された猫さん。
血尿が出ているとのことですが、十分な量が出ているかは
不明という経過でした。
触診してみると膀胱は硬く膨らんでいて、レントゲン検査では
膀胱が拡大し尿道に結石も認められました。
これは❝尿路閉塞❞と呼ばれる状況で、出来る限りすぐに
治療を行わないと命を落とすこともある緊急疾患です。
血液検査ではBUN99.9mg/dl、Cre8.5mg/dl、
K5.3mEq/l、と急性腎不全を疑う所見です。
尿道カテーテルで尿道閉塞を解除し応急処置し、その
4日後に膀胱内に戻した石を取るため手術を行いました。
直径2mmの石を摘出し、その後元気や尿の様子も良好
だったので3日で退院となり、現在はたまに膀胱炎になるも
安定した体調を保っています。
尿石症について
尿石症は尿路の中にできた結石により様々な症状を起こす
病気で、猫さんだとストルバイト結晶とシュウ酸Ca結晶
が検出されることが多いです。
膀胱内に転がっていたり、管の中にあっても閉塞していない
場合には無症状のことも多く発見が難しい病気です。
この石が尿道や尿管(腎臓と膀胱を繋ぐ管)に詰まると
尿が出なくなり、放置すると命に関わる腎不全になる
こともあります。
尿石症により閉塞が起きる前に膀胱炎を繰り返している
猫さんも多く、結晶を石にさせないためにフードや水、
環境エンリッチメントの見直しが重要になります。
発症するのは圧倒的に雄猫さんが多く、これは
雄猫さんの尿道がとても細いためです。
雌猫さんはそうとうな大きさの石にならないと通常は
尿道に閉塞することはありません。
ただし、雌雄とも尿管に石が詰まってしまうリスクは
あります。
尿石症の治療
ストルバイト結晶が結石化した場合
溶解する結石なので、閉塞などの問題を起こしていない
状況であれば処方食や飲水により結晶化させ、尿で
洗い流していきます。
尿のPHがアルカリ性に傾くと析出しやすい結晶です。
シュウ酸Ca結晶が結石化した場合
基本的に溶解できない結石なので、結石になってしまった
場合には手術で摘出することになります。
尿のpHが酸性に傾くと析出しやすい結晶です。
詰まってしまった場所や状況によってはSUBシステム
や腎瘻チューブといったインプラントを尿管の代わりに
したり、雄は会陰尿道婁といって尿道を短くする手術を
したりします。
猫さんの尿石症の予防
飲水量を増やす
これが最も重要です。
理科の飽和食塩水を作る実験を思い出してください。
尿の中で結晶になるはずの物質は分子として浮かんでいるので、
それを結晶化、結石化させないためには水で薄めれば
阻止できます。
猫さんの好みの水の飲み方(温度、器の大きさ、周りの環境など)
を普段から観察し、それに則した水飲み場をおうちの中に
何カ所か作ってあげてください。
適切なフードを与える
体質や持病もあるため難しいこともありますが、基本的に
栄養バランスがしっかりしたフードを与えるようにして
ください。
極端に蛋白質の多いフード(グレインフリーフードなど)や
極端に野菜の多いフードは尿のpHをとても乱してしまうことも
多く、猫という動物にとって適切な栄養素がきちんと考えられた
フードを与えることがとても重要です。
環境エンリッチメントの整備
猫さんの尿石症は前段階として膀胱炎が発症することも多々
あるため、膀胱炎の予防のため快適な生活環境を整備する
ことを推奨します。
猫さんの膀胱炎は特発性膀胱炎といってストレス性の
膀胱炎が多く、過剰なストレスを排除することである程度
予防できることがあります。
きれいな広いトイレを1頭につき2個以上、ふわふわの寝床を
静かな場所に複数ヶ所用意する、トイレのそばにフードや
水を置かない、猫さんの性格に合わせた接し方などなど、
完璧にではなくとも心掛けてあげてください。
大切なこと
尿石症は尿路閉塞に至ってしまうと2mmに満たない石が
大事な子の命を奪うこともある恐ろしい病気です。
もし閉塞が発症した場合には早期発見早期治療で予後が
大きく変わるため、出来得る限り早く病院に来院して
ください。
普段からおうちの子がどのくらいの量、どのくらいの頻度で
尿をしているか、毎日の掃除で色は正常かなどを観察して
おくといざ異常が出た場合にすぐ行動に移しやすいです。
今日からでも構いませんので、普段の猫さんのトイレ状況、
ストレスの感じ方などを観察してみてあげてくださいね。
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