犬の熱中症対策と緊急時の対応マニュアル
熱中症とは、体内にこもった熱をうまく放出できずに体温が異常に上昇し、全身に深刻な影響を及ぼす緊急事態です。
犬は人のように全身で汗をかけず、主に舌を出してハアハアと呼吸(パンティング)することで体温を調整しています。しかし、気温や湿度が高い状況ではこの方法が機能せず、体に熱がたまりやすくなります。
特に、以下のような犬は熱中症のリスクが高くなります。
・パグやフレンチブルドッグなどの短頭種
・ハスキーなど寒冷地原産の犬種
・被毛が黒い犬や被毛が密な犬
・肥満の犬、高齢犬、子犬、持病がある犬
熱中症は急激に進行し、放置すれば命にかかわることもあります。大切なのは、日頃から予防を徹底し、万が一のときにも冷静に対処できるようにしておくことです。
今回は、犬の熱中症について、初期症状の見極め方から日常の予防策、万が一のときの応急処置まで、獣医師の視点から詳しく解説します。
■目次
1.熱中症の初期症状と見極め方
2.熱中症を引き起こしやすい環境と注意点
3.犬の熱中症を防ぐための5つのポイント
4.熱中症が疑われるときの応急処置マニュアル
5.熱中症後のケアと再発予防
6.まとめ|日々の対策と早めの行動で愛犬の命を守る
熱中症の初期症状と見極め方
熱中症は初期の段階で気づくことが大切です。見逃されがちな初期症状には、以下のようなものがあります。
・激しいパンティング(ハアハアと荒い呼吸)
・よだれが多くなる
・体に触れると熱く感じる
・水をたくさん飲む
進行すると、ふらつき、嘔吐、下痢、ぐったりして動かない、舌や歯茎が紫色になる、痙攣、意識障害などの重篤な症状が現れます。犬の平熱はおおよそ37.5~39℃ですが、熱中症時には40℃以上に達することもあります。
普段から愛犬の様子をよく観察し、少しでも異変を感じたらすぐに対応しましょう。
熱中症を引き起こしやすい環境と注意点
熱中症は真夏の屋外だけでなく、次のような場所でも発生します。
・車内
短時間でも急激に温度が上昇するため、犬だけを車に残すのは絶対に避けてください。
・日中のアスファルト上の散歩
地面からの熱が反射し、足の裏を火傷したり体温が上がる原因になります。
・エアコンのない室内
締め切った部屋や直射日光の当たる場所では、室内でも熱中症が起こります。
どのような場所でも油断せず、環境と時間帯に注意して過ごしましょう。
犬の熱中症を防ぐための5つのポイント
熱中症は、日常のちょっとした工夫で予防できる病気です。ここでは、犬の熱中症を防ぐために飼い主さまが今日から実践できる5つの対策を紹介します。
◆ 散歩時間とコースを見直す
早朝や日没後の涼しい時間帯を選びましょう。アスファルトの温度を手の甲で確認し、できるだけ芝生や日陰のルートを選ぶと安心です。
◆ 十分な水分補給を確保する
複数の場所に水皿を設置し、常に新鮮な水を用意します。外出時は携帯用ボトルを持ち歩き、こまめに飲水を促しましょう。
◆ 冷却グッズの活用
クールマット、冷感ベスト、バンダナなどを取り入れましょう。被毛が厚い犬にはブラッシングやサマーカットもおすすめです。
◆ 室内環境の工夫
エアコンや扇風機を活用し、室温は25~28℃、湿度は50%以下を保ちましょう。直射日光は遮り、風通しのよい場所で過ごせるようにします。
◆ ハイリスク犬への配慮
短頭種、高齢犬、肥満犬、持病がある犬は特に注意し、上記の対策を徹底してください。
熱中症が疑われるときの応急処置マニュアル
万が一、愛犬に熱中症の疑いがある場合は、時間との勝負です。ここでは、ご家庭でできる応急処置の流れをステップごとにご紹介します。落ち着いて行動しつつ、早めに動物病院へ連絡しましょう。
1. 涼しい場所へ移動する
すぐにエアコンの効いた部屋や日陰などへ避難させましょう。
2. 適切に体を冷やす
首、脇の下、内股を常温の水で濡らしたタオルや保冷剤で冷やします。全身に常温の水をかけて扇風機を当てると効果的です。氷水や冷水は体を急激に冷やしすぎる恐れがあるため避けましょう。
3. 自力で水が飲める場合は、少しずつ与える
無理に飲ませるのは危険なので、無理強いは禁物です。
4. 体温を測れる場合はチェック
肛門で体温を測り、40℃を超えていたら特に危険な状態です。
5. 応急処置をしながら動物病院へ連絡を
「様子を見よう」は禁物です。冷却処置を行いながら、できるだけ早く動物病院に連絡し、指示を仰ぎつつ搬送してください。
熱中症後のケアと再発予防
動物病院で治療を受けた後も、帰宅後は安静と水分補給を心がけ、食欲や元気、排泄の様子を注意深く見守りましょう。症状がぶり返す場合は、すぐに再診を受けてください。
一度熱中症を経験した犬は再発しやすいため、以後はより厳重な予防策が必要です。回復期もこまめな観察と水分摂取を続けてください。
まとめ|日々の対策と早めの行動で愛犬の命を守る
犬の熱中症は、命に関わる非常に危険なものですが、予防と早期対応によって回避・軽症化できる病気です。散歩の時間や環境の整備、水分補給、冷却対策といった日々のちょっとした工夫が、愛犬の健康を大きく左右します。
そして、もうひとつ大切なのは「万が一の時にどう動くか」をあらかじめ確認しておくこと。緊急時こそ冷静な判断と迅速な対応が求められます。熱中症が疑われる状況では、少しの迷いが命取りになることもあるため、「様子を見よう」とは考えず、すぐに行動に移すことが重要です。「いつもと違うかも」と感じたら、迷わず動物病院を受診しましょう。
当院では、季節ごとの健康管理や緊急時の対応にも力を入れています。暑さの厳しい時期も安心して過ごせるように、どうぞお気軽にご相談ください。
愛知県みよし市にある犬と猫の病院「Ken doc.」
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