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犬のホルモン性脱毛症|クッシング症候群による脱毛の特徴と治療の流れ

犬の脱毛にはさまざまな理由がありますが、なかには体の内側で起きているホルモンバランスの乱れが関係していることがあります。特に代表的なのが「クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)」です。

この病気による変化は、年齢や季節による毛並みのゆらぎとよく似ているため「気づいたときには広がっていた」というケースも少なくありません。愛犬に気になる脱毛や体の変化がある場合は、ホルモンの異常が隠れていないか早めに確認しておくことが大切です。

今回は、クッシング症候群によるホルモン性脱毛症の特徴、診断の流れ、治療について、獣医師の視点から詳しく解説します。


■目次
1.犬のホルモン性脱毛症とは
2.クッシング症候群と脱毛の関係
3.見分けるポイントと注意すべきサイン
4.診断と治療の流れ
5.まとめ

犬のホルモン性脱毛症とは


犬の被毛は、ホルモンによって「生える・休む・抜ける」というサイクルが調整されています。そのため、ホルモンバランスが崩れると毛の成長が滞り、新しい毛が生えにくくなることで脱毛が起こることがあります。

ホルモン性脱毛症の特徴は、かゆみや赤みが目立たず、静かに進行することが多いという点です。気づいたときには広い範囲で毛が薄くなっていることも珍しくありません。

原因となる病気はいくつかありますが、代表的なものが「クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)」です。そのほか「甲状腺機能低下症」などもホルモン性脱毛を引き起こすことがあります。

クッシング症候群と脱毛の関係


クッシング症候群は、腎臓の近くにある副腎から「コルチゾール(副腎皮質ホルモン)」が過剰に分泌される病気です。

主な原因は、下垂体腫瘍が約80%、副腎腫瘍が約20%とされており、ほとんどがこのどちらかに該当します。また、ステロイド薬を長期使用した場合に起こる「薬剤性クッシング症候群」もあります。

<なぜ脱毛につながるのか>

本来コルチゾールは、炎症を抑えたり代謝を調整したりと大切な役割を持つホルモンです。しかし、過剰になると皮膚の新陳代謝に影響し、次のような変化が起こります。

毛が生えかわるサイクルが乱れる
毛が成長しにくくなる
左右対称に毛が薄くなる

その結果、かゆみを伴わずに、じわじわ広がる脱毛が見られます。「気づいたら毛並みが変わっていた」というケースが多いのはこのためです。

<進行すると全身に広がる影響>

コルチゾールの過剰分泌は、皮膚だけでなく体全体にも影響します。

筋肉量の低下
免疫力の低下
長期的には糖尿病や血栓症などの合併症のリスク

症状が重なると、命に関わる状態に進行することもあるため、早期に異変に気づいてあげることが重要です。

見分けるポイントと注意すべきサイン


クッシング症候群は、脱毛以外にもさまざまなサインが表れる病気です。特に、皮膚や被毛の変化は飼い主さまが早い段階で気づきやすいポイントです。

<典型的な症状>

次のような変化がみられる場合は、ホルモンの異常が背景にある可能性があります。

多飲多尿(水をよく飲み、尿量が増える)
食欲の異常な増加
お腹がぽっこりと膨れて見える
皮膚が薄くなる、色素沈着が目立つ
体重は変わらないのに筋肉が落ちていく

これらは年齢のせい、季節の変化、ただの体質などと思われがちですが、実はクッシング症候群の初期サインであることも少なくありません。

<クッシング症候群による脱毛の特徴>

ホルモンバランスの乱れによる脱毛には、次のような「特徴的なパターン」があります。

左右対称に毛が薄くなる
かゆみや赤みをあまり伴わない
背中・胴体の毛が全体的にスカスカしてくる
季節性の換毛と違い、自然に生えそろわない

皮膚のトラブルというより、毛が育たなくなるイメージの変化が多く見られます。

<「年齢のせい」と思いやすい落とし穴>

シニア期に入ると毛並みが変わったり、水をよく飲むようになったりと、年齢による自然な変化も起こります。そのため、クッシング症候群の初期症状は見逃されやすく、気づいたときには進行しているケースも少なくありません。「なんとなくいつもと違うかも」という違和感が、早期発見の大切なサインになります。

診断と治療の流れ


クッシング症候群は、症状だけでは判断が難しいため、いくつかの検査を組み合わせて原因を見極めていきます。早い段階で正確に診断できれば、治療の選択肢が広がり、愛犬の生活をより快適に保つことにつながります。

<代表的な診断方法>

まず、血液検査や超音波検査で全身状態を把握し、副腎・肝臓などに異常がないかを確認します。そのうえで、次のようなホルモンの働きを評価する検査を行い、クッシング症候群かどうか、また原因がどこにあるのかを詳しく調べます。

ACTH刺激試験:副腎がどれくらいホルモンを作るかを確認
低用量デキサメタゾン抑制試験:ホルモンを抑える仕組みが働いているかをチェック
高用量デキサメタゾン試験:原因が下垂体性か副腎性かを判別

これらの結果を組み合わせながら、病気のタイプ・進行度・最適な治療方針を丁寧に判断していきます。

<治療の進め方>

クッシング症候群の治療方法は、原因によって異なります。

下垂体性クッシング症候群の場合
多くのケースで、内服薬によるホルモンのコントロールを行います。薬の量を調整しながら、コルチゾールが正常に近い状態を維持していきます。

副腎腫瘍が原因の場合
腫瘍の摘出を目的とした手術を検討することがあります。ただし、年齢・基礎疾患・麻酔リスクなどを考慮し、手術が難しい場合は内服薬によるコントロールを選択することもあります。

いずれのタイプでも、治療開始後は定期的な検査と内服管理が欠かせません。薬が効きすぎてしまうと体調に影響が出るため、ホルモン値を確認しながら、その子に合った最適な状態を維持していきます。

「治療が続く」と聞くと不安に感じるかもしれませんが、適切にコントロールすることで、これまでどおり穏やかに過ごせるケースが多い病気です。

<早めに相談できる安心感>

クッシング症候群は、脱毛や多飲多尿など、年齢や季節の変化と区別がつきにくいことが特徴です。そのため「少し気になる変化」があった段階で相談することが、愛犬の生活の質を守る大切な一歩になります。

当院には、スキンケアアドバイザーの知識を持つ皮膚分野に強いスタッフが在籍しており、皮膚症状の背景にある全身疾患にも丁寧にアプローチしています。「皮膚トラブルで来院したら、ホルモンの異常が見つかった」というケースも珍しくありません。気になる脱毛や体の変化があれば、どうぞお早めにご相談ください。

まとめ


クッシング症候群によるホルモン性脱毛症は、かゆみが少なく気づきにくい一方、脱毛や毛並みの変化が病気の早期サインになることがあります。年齢や季節による変化と紛らわしいため「少しおかしいかも」と感じた段階で相談していただくことが大切です。

早期に診断できれば、内服薬によるコントロールなどで穏やかな生活を維持できるケースが多く、治療の選択肢も広がります。脱毛や毛並みの違和感があれば、お気軽にご相談ください。

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