犬の脱毛症とアロペシアXの基礎知識|症状・原因・治療法を獣医師が解説
左右対称の脱毛や皮膚の黒ずみ、かゆみのない抜け毛は、病的な脱毛症のサインかもしれません。
なかでも「アロペシアX」は、ポメラニアンなどでよく見られる原因不明の脱毛症として知られています。進行すると全身の毛が薄くなることもあるため、早めの対応が大切です。
今回は、犬の脱毛症の見分け方から、アロペシアXの特徴・治療法までを獣医師の視点で解説します。
■目次
1.犬の脱毛症とは?換毛との違いと見落としやすいサイン
2.犬の脱毛症の主な種類と原因
3.アロペシアXとは?特徴・診断・治療のアプローチ
4.よくあるご質問
5.まとめ
犬の脱毛症とは?|換毛との違いと見落としやすいサイン
犬には春と秋に「換毛期」があり、毛がまとまって抜け落ちるのは自然な現象です。特に短毛種やダブルコートの犬種では、抜け毛に悩まされる飼い主さまも多いのではないでしょうか。
ただし、以下のような症状が見られる場合は、病的な脱毛症が疑われます。
・左右対称に毛が抜けている
・皮膚が黒ずんでいる、またはべたつきがある
・時間が経っても毛が生えてこない
・円形状に部分的な脱毛がある
こうした症状があるときは「年齢のせいかな」「換毛期だからかな」と判断する前に、一度動物病院でのチェックをおすすめします。
犬の脱毛症の主な種類と原因
犬の脱毛症は原因によって治療法が異なります。ここでは、代表的な脱毛のタイプとその原因をご紹介します。
・ホルモン性脱毛症
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、甲状腺機能低下症、性ホルモンの異常など、ホルモンバランスの乱れによって脱毛が生じます。左右対称に毛が抜けるのが特徴で、かゆみはほとんどみられません。
・感染性脱毛症
皮膚糸状菌(カビ)や細菌の感染によって脱毛します。赤みやフケ、ただれなどの皮膚症状や、かゆみを伴うこともあります。
・アレルギー性脱毛症
ノミ、食事、環境などへのアレルギーが原因で、強いかゆみを伴います。掻きむしることで毛が抜けてしまうケースが多く見られます。
・心因性脱毛(過剰グルーミング)
ストレスや不安から自分の毛をなめ続けたり、かじったりすることで脱毛が起こります。引っ越しや飼い主さまの不在など、環境の変化が引き金になることもあります。
・アロペシアX(成長ホルモン反応性脱毛症)
原因が明らかになっていない非炎症性の脱毛症で、特定の犬種で多くみられます。左右対称に体幹部(首回り・胸部・背中・太もも)から脱毛が進み、見た目の変化が目立つのが特徴です。
同じ「毛が抜ける」症状でも、原因や対処法はさまざまです。気になる症状が見られた際は、早めにご相談いただくことで、愛犬に合った適切なケアにつながります。
アロペシアXとは?特徴・診断・治療のアプローチ
アロペシアX(Alopecia X)は、特にポメラニアンをはじめとする一部の犬種で多く見られる、原因不明の脱毛症です。ホルモンバランスの異常が関与していると考えられていますが「X」という名称も、原因がはっきりしていないことに由来しています。
関与が疑われているホルモンには、性ホルモンや成長ホルモン、副腎皮質ホルモンなどがあり、こうした内分泌のバランスの乱れが被毛のサイクルに影響を及ぼしている可能性が指摘されています。
<好発犬種 >
以下のような犬種でアロペシアXの発症が比較的多く報告されています。
・ポメラニアン
・ミニチュア・プードル
・アラスカン・マラミュート
・チャウチャウ
・シベリアン・ハスキー
<主な症状の特徴>
アロペシアXでは、左右対称の脱毛や皮膚の黒ずみ(色素沈着)といった外見の変化が特徴的です。かゆみや炎症を伴わないため、皮膚トラブルに気づきにくい場合もあります。
・左右対称に毛が抜ける
・体幹部や尻尾の毛が薄くなる(尻尾がネズミのように見えることも)
・皮膚の黒ずみが目立つ
・かゆみや痛みはほとんどみられない
<診断方法>
アロペシアXを診断するには、まず他の病気を丁寧に除外していく必要があります。脱毛を引き起こす疾患は多数あるため、見た目だけでの判断は難しく、的確な診断のために以下のような検査を行います。
・血液検査・ホルモン検査
全身の健康状態を把握しながら、甲状腺や副腎などのホルモンバランスに異常がないかを調べます。
・皮膚検査
毛や皮膚の状態を調べ、カビや細菌、ダニなどの皮膚疾患が関与していないかを確認します。
・皮膚生検
必要に応じて、皮膚の一部を小さく採取し、顕微鏡で詳細に調べます。診断の確度を高めるために用いられる検査です。
こうした検査の結果、アレルギーやホルモン疾患(例:甲状腺機能低下症、クッシング症候群)などの他の病気が否定された場合、アロペシアXの疑いが強いと判断されます。このように、複数の疑いを一つずつ除外しながら診断を進める方法を「除外診断」といいます。
<治療の考え方と主なアプローチ>
アロペシアXは命に関わる病気ではありませんが、進行すると被毛の変化が目立ち、皮膚の乾燥や色素沈着などが進行することがあります。現在のところ確立された治療法はありませんが、以下のような複数のアプローチを組み合わせながら、進行を抑えたり毛の再生を目指したりします。
・去勢・避妊手術(性ホルモンの影響を軽減)
・メラトニンの摂取(ホルモンバランスの調整を目的として)
・保湿ケアや薬用シャンプー、外用薬の使用
・鍼灸などの補完療法
・皮膚ケア用の療法食やサプリメントの併用
いずれの治療法にも個体差があり、すぐに効果が得られるとは限りませんが、丁寧なケアを続けることで毛の再生が見られるケースもあります。
「見た目の変化だけ」と思われがちなアロペシアXですが、愛犬の皮膚の健康を守るためにも、症状に気づいたら早めに動物病院でのご相談をおすすめします。
よくあるご質問
犬の脱毛について、飼い主さまからよく寄せられるご質問にお答えします。
Q:換毛期と脱毛症の見分け方はありますか?
A:換毛期は全身的に均一に毛が抜け、季節の変わり目に起こるのが一般的です。一方、脱毛症では特定部位がまだらに抜けたり、再生しにくくなることがあります。迷ったときは、動物病院での確認をおすすめします。
Q:毛が抜けていても、元気なら様子見で大丈夫?
A:脱毛症は見た目以外に症状がないことも多く「元気だから」と放置されがちです。ただし、脱毛が進行したり、皮膚のバリア機能が落ちて炎症が起きやすくなることもあるため、早めの対応が大切です。
Q:脱毛症は治りますか?
A:原因によって異なりますが、多くの場合、適切な治療で改善が見込めます。アロペシアXのように完治が難しいタイプでも、進行を抑えたり、毛の再生を促すケア方法があります。まずは正確な診断を受けましょう。
まとめ
犬の脱毛は単なる見た目の変化ではなく、体の内側で起きている異常のサインであることも少なくありません。「年齢のせい」「季節の変わり目だから」と自己判断せず、気になる抜け毛や皮膚の変化があれば、早めに動物病院での診察をおすすめします。
特にアロペシアXのように進行性で完治が難しい脱毛症は、早期に見つけて適切なケアを始めることが大切です。症状の背景にある原因を丁寧に見極め、愛犬に合った治療やスキンケアで、快適な生活をサポートしていきましょう。
◼犬の脱毛についてはこちらの記事もご覧ください
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